わんぱくつばめ

            (語りあり)

 

            作・広島友好

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   ○登場するのは ……

   わんぱくつばめ ……

   チビつばめ   ……

   おっとりつばめ ……

   おとうさんつばめ……

   おかあさんつばめ……

   おしゃれつばめ ……

   かえるのおばさん……

   ヘビの女王   ……

   シオカラトンボ ……

   語り      ……

 

 

 

 

 

語り 「わんぱくつばめ」

 

   M(歌)…子どもたちもみんなで。

 

    空を飛ぶと 心はずむ

    風は友だち 翼が踊る

    口を大きくあけて 青空吸いこんで

    とどけよう歌を 大好きなきみに

 

   第一景

 

語り 春です。

   花が咲き、鳥たちはさえずります。

全員 (幕から一斉に顔を出して。様々な鳥の鳴き声)

   ピチュピチュ。チュンチュン。ピーヒョロロ。カーカー。ホーホケキョ。…………

語り かえるのおばさん登場です。

かえる ゲコゲコゲコゲコ。(眠そうに)ゲロゲロゲーコ、ゲコゲコゲーロ。(あくび)あああ。よく寝た。ひと冬寝た。あったかくなっきたんで、身体がムズ ムズして土の中から出てきた。一年の中で春が一番いい。花が咲き、池の水もぬるんでくる。そしてなにより、ウフッ、恋の季節だわ。生きとし生けるものみん ながだれかを好きになって、やさしい気持ちになる。おや……。

語り つばめが一羽やってきました。

 

   SEおとうさんつばめ登場…飛ぶ音…笛。

 

語り おとうさんつばめです。

父つばめ (行き過ぎて慌てて引き返してきて)やあ、かえるさん、こんにちは。(飛ぶマイム)

かえる ああ。こんにちは。どうしたんだい、そんなにあわてて?

父つばめ 子どもが生まれそうなんだ。

かえる それはおめでとう!

父つばめ 卵から生まれてくる前に、食べ物とあたたかいワラを用意しとかなくちゃならない。目が回るほど忙しいよ。それになんだかじっとしていられない。

かえる ハハハ、わかる、わかる。……それはそうと、つばめさんの巣は確か酒屋さんの軒下だったね。

父つばめ ええ。

かえる あそこはやめた方がいい。

父つばめ どういうこと?

かえる あの酒屋さんはだれも知らないうちにどっかへ行ってしまった。今は空家になってる。

父つばめ そうだよ。

かえる なにか起こりそうないやな予感がするんだ。

父つばめ 変なこと言わないで。あの巣はひいひいおじいさんつばめのときからのものなんだ。それに子どもが生まれるから引っ越しどころじゃない。

かえる ああ、そうだね、悪かったわ。早く家へ戻っておやり。子どもが生まれたらわっちにも会わせておくれ。

父つばめ いいとも。

 

   父つばめ、飛び去る…SEつばめの飛ぶ音。

 

かえる 気をつけてな。(あくび)あああ。わっちはやっぱりもうひと眠りしよう。ゲロゲロゲーコ、ゲコゲコゲーロ。(去る)

 

   ◎転換…M音楽。

 

語り さてここはだれもいない酒屋さんです。

   くわしくはその軒下の巣……つばめさんのおうちです。

   巣では今、おかあさんつばめが卵をあたためています。

 

   三つの卵…(後ろ向きに膝を抱えて丸まってすわっている)…時々ゆれる、動く。

   おかあさんつばめが三つの卵をなでたり、さすったり、温めたり。

 

語り あ、おとうさんつばめが帰ってきた。

父つばめ (SE飛ぶ音…やってくる)そら、食べ物(虫のぬいぐるみ)を取ってきたよ。

 

   ト母つばめにくちづけして食べさせる。

 

母つばめ (虫をモグモグと食べて)ありがとうあなた。ねえ、さっきから卵がゴソゴソするのよ。

 

   卵たち、ゴソゴソモソモソ動く。それぞれに。

 

父つばめ 本当かい?

母つばめ ほら、さわってみて。

父つばめ (卵にさわる)

 

   SEそれぞれの卵の特徴音。

   チビ卵はチョコマカと。

   わんぱく卵は元気よく。

   おっとり卵はおっとりと。

 

父つばめ ああ、本当だ。でもこの卵たち、みんな形や大きさがバラバラだ。

母つばめ そうかしら。それでもいいじゃない。

父つばめ そうだな。

母つばめ ねえ、名前を付けましょうよ。

父つばめ 気が早いね。

母つばめ いえ、そんなことないわ。

父つばめ そんなことないか。

母つばめ この小さな卵は、チョコマカしてるから……、おまえはチビつばめ。

父つばめ この大きくて眠っているような卵は、おっとりつばめだ。

母つばめ この元気いっぱいな卵は、わんぱくつばめね。

父つばめ うん、わんぱくだ。

 

語り わんぱく卵はうれしくて踊っているようね。

 

母つばめ もうじきだわ。

父つばめ もうじきか。

母つばめ ねえ、歌をうたって卵の中の子どもたちに聞かせてあげて。

父つばめ よし。

 

   M(歌)

父つばめ 空を飛ぶと 心はずむ

     風は友だち 翼が踊る

夫婦二人 口を大きくあけて 青空吸いこんで

     とどけよう歌を 大好きなきみに

 

母つばめ 卵が、ほら、歌に合わせて踊りだしたわ。

 

   つばめの夫婦の歌に合わせ卵たちがむずむずと動き出す。

 

母つばめ あなた、ほら、ねえ、卵が。

父つばめ ああ、ああ。

 

   チビ卵、割れる…SE卵の割れる音…パリパリ……ポンッ!

 

チビつばめ ピチュピチュピチュチューイ。おかあさんこんにちは、チビつばめだよ。

 

   おっとり卵、割れる…SEちょっとおっとりした感じの卵の割れる音。

 

おっとりつばめ ピチュピチュピチュチューイ。おとうさんこんにちは、おっとりつばめだよ。

 

   わんぱく卵、割れる…SE元気いっぱいの卵の割れる音。

 

わんぱくつばめ ピチュピチュピチュチューイ。みんなこんにちは、わんぱくつばめだよ。

つばめ夫婦 こんにちは。

子つばめたち ピチュピチュピチュチューイ、ピチュピチュピチュチューイ。ピチュピチュピチュチューイ、ピチュピチュピチュチューイ。

父つばめ 生まれた、生まれた、元気な子つばめたち。

母つばめ 大切に育てるわ。強く大きくなってね。

子つばめたち ピチュピチュピチュチューイ。

父つばめ よし、子つばめたちの食べ物を取ってくる。たくさんたくさん取ってくる。

子つばめたち ピチュピチュピチュチューイ。

父つばめ しかしひとりでみんなの分を取ってくるのは大変だ。おかあさん、一緒に取りに行こう。

母つばめ でも、大丈夫かしら、子どもたちだけにして。

わんぱく 心配いらないよおかあさん、ピチュピチュピチュチューイ。

おっとり おなかが空いたよ、おなかが空いたよ、ピチュピチュピチュチューイ。

チビ すぐに帰ってきて、ピチュピチュピチュチューイ。

母つばめ わかったわ。おとうさん行きましょ。

父つばめ みんなおとなしく待ってるんだよ。

子つばめたち ピチュピチュピチュチューイ。

 

   つばめの夫婦、飛び立つ…SE飛ぶ音。

 

おっとり おとうさんもおかあさんも行ってしまった。急に心細くなってきちゃった。

チビ わんぱくがいけないんだよ。ひとりで強がって、いいカッコして。なにかあったらどうするんだ。

わんぱく 心配するなよ。

おっとり でも、おかあさんが卵をあたためながらいつも言ってたじゃない、

チビ・おっとり「どんなときも決して油断しちゃダメよ。ヘビが出たら大変だからね」。

わんぱく そんなのたとえ話さ。ヘビが出たらやっつけてやる。

チビ どうやってさ。言ってごらんよ。できもしないことを言うんじゃない。

わんぱく できるさ。

チビ うそつき。

わんぱく なんだって。(つかみ合う)

おっとり (けんかは)やめてよ、やめてよ。

 

   SE飛ぶ音…かわいらしい。

 

語り おや、飛んでやってきたのは、おしゃまでかわいいおしゃれつばめです。

おしゃれつばめ どうしたの? なにけんかしてんの、あんたたち。

わんぱく だれだ、おまえ?

おしゃれ 見てわかんない、おしゃれつばめよ。

わんぱく ハハ、バカじゃないの。子どものくせに。

おしゃれ なによ、あんたたちも生まれたばかりでしょ。

おっとり そうだよ。

チビ その通り。

わんぱく それが悪いか。

おしゃれ 早くわたしのように空を飛んでご覧なさいよ。

わんぱく 生意気なやつ!

おしゃれ ほら、ほら!(SE飛ぶ音)

 

語り わんぱくたちの回りを飛び回るおしゃれつばめ。でもまだちょっと飛ぶのが下手ね。ふらふらしてるわ。

おしゃれ (フラフラしてバランスをくずす)あ、あ、いけない!

わんぱく ハハハ、ちっともうまくないじゃないか。

おしゃれ だってきのう初めて飛んだばかりなんだもの。なによ、飛べないあんたたちよりましよ。そら、ピチュピチュピチュチューイ、ピチュピチュピチュチューイ……あああ——(トまたフラフラとバランスをくずし、一方の幕の奥へ)

わんぱく ハハハハハ!

おしゃれの声 (突然)キャーッ!

わんぱく なんだ?

チビ・おっとり なんだ、なんだ?

おしゃれ キャー!(錐もみしながら一方の幕から一方の幕へ飛んで逃げていく)

わんぱく ハハハ、さんざんこっちをバカにして、結局飛んでいったぞ。

おっとり まるでヘビに出会ったみたいだった。

チビ ヘビに? 変なこと言うなよ。

わんぱく 平気だよ。ヘビなんか怖くないさ。

 

   ト何かのしっぽのようなものがわんぱくの肩をトントンと叩く。誰も気づかない。

 

何かのしっぽの声 あたしがどうかしたって?

 

   しっぽがさっと引っ込む。

 

わんぱく (勘違いして)やめろよ、おっとり。

おっとり え、なにもしてないよ。

わんぱく じゃ、チビだ。肩を叩くなよ。

チビ ボクはなにもしてないよ。

 

   トまたしっぽが出てきて、わんぱくの肩をトントンと叩いて、またさっと引っ込む。

 

わんぱく え? だったらだれが?

何かのしっぽの声 ヘビの女王よ。フフフ。

 

   M…ヘビの女王登場の音楽。

 

語り と、現れたのはヘビの女王。

 

   しっぽとは反対側の幕からヘビの顔が出てくる。同時にしっぽもまた出る。

   わんぱくはヘビとにらめっこして、ビックリ!

 

子つばめたち (悲鳴)ピチューッ!

 

   子つばめたち、バタバタともがき騒ぐ。身を寄せ合う。が、みんな飛べない。

 

語り さあ、大変! でも子つばめさんたち、まだお空が飛べないの。

おっとり おかあさーん!

チビ (わんぱくをにらんで)おまえがいけないんだぞ。おまえがヘビを呼びよせたんだ。

わんぱく なに言ってんだ。

おっとり おかあさーん! おかあさーん!

わんぱく (おっとりに)こら、さわぐんじゃない。巣がこわれる。

ヘビ おい、おまえたち、かわいそうだが観念しな。あたしは長い長い眠りからさっき起きたばかりで、はらぺこなんだ。

おっとり (泣く)ピチュー。ボクは食べてもまずいと思うよ。

ヘビ それにしては丸々とよく太ってるじゃないか。

おっとり ピチュー。ど、どうしてだろう? 

ヘビ さあ、おとなしくしろ。弱いものは強いものに食べられる。それが自然の掟だ。

チビ ヘン。なにが「自然の掟だ」だ。

わんぱく やめろチビ、ここはおとなしくしてるんだ。もうすぐおとうさんたちが帰ってくる。

チビ うるさい。わんぱくの弱虫。ヘビなんかこうしてやる! こうしてやる!

 

   チビつばめ、ヘビをくちばしでつつく。

 

ヘビ やったな。よし、それならおまえからだ。悪く思うな。はらぺこだからしょうがない。ウンガガガ。

 

   ヘビ、チビつばめを食べる。

 

語り あらあら、食べられちゃった。

おっとり あああ、大変だ。チビが食べられたよ。どうしよう、どうしよう。

わんぱく ああ、空を飛べたら、こんなやつ怖くもなんともないのに。

ヘビ (交互に指差し)ど・ち・ら・に・し・よ・う・か・な……次はふとっちょ、おまえだ。

おっとり 助けて!

おしゃれ 早く、早く! こっちよ。

 

   トこの時、おしゃれつばめがつばめの夫婦を連れて戻ってくる。(SE飛ぶ音)

 

語り おとうさんつばめとおかあさんつばめです。早く早く。

父つばめ なんだ、どうした? 

わんぱく チビがヘビに食べられた!

つばめ夫婦 ええ! 

ヘビ 悪く思うな。自然の掟だ。腹がいっぱいになるまではここを動かない。

母つばめ あなた。

父つばめ ううっ。(歯ぎしりして悔しがる)

わんぱく ボクにいい考えがある。

父つばめ なんだ? 

わんぱく ヘビは、強いものが弱いものに勝つのが自然の掟だと言った。

おっとり うん。

わんぱく だったらヘビより強くなればいい。

おしゃれ どうやってあのヘビより強くなるのよ? そんなの無理だわ。

わんぱく 強くなれるさ。

父つばめ どうやって? 

わんぱく こうするのさ。(みんなに耳打ちする)

ヘビ なにをコソコソやってるんだ。おとなしく食べられろ。

わんぱく うるさいやい。ボクらをなめると、こうだぞ!

 

   M…つばめたち、連なって飛び上がる。父つばめを先頭に、母つばめを後尾にして。そしてひとつの大きな生きものになる、大鷲のような、あるいはドラゴンのような。(集団のぐるぐるパフォーマンス)

 

ヘビ なんだ、なんだ。

わんぱく おまえなんか怖くない。こうしてやる。お返しだ!

 

   大鷲になったみんながヘビをつつく。

 

ヘビ ああ、助けて、助けて、ごめんなさーい。

 

   ヘビ、すたこらさっさと逃げていく。

 

わんぱく もうここにはくるんじゃないぞ!

父つばめ みんな無事か。ケガはないか。

母つばめ (くずおれ泣き出す)

わんぱく ……おかあさん。

おっとり ……おかあさん。

母つばめ チビちゃんはヘビに食べられてしまったのね。もう会えないのね……。

おっとり ピチュー。ボクがいけないんだ。ボクが食べられればよかったんだ。

わんぱく (おっとりに)泣くなよ。

母つばめ チビちゃん、チビちゃん……。(泣く)

父つばめ ……おかあさん。

おしゃれ ピチュー、おばさんかわいそう。(泣く)

わんぱく おかあさん、そんなに泣かないで……。

 

   ピチュピチュピチュチューイ。

   ピチュピチュピチュチューイ。

 

   暗転…Mブリッジ。◎転換。

 

 

 

   第二景

   

語り 時が経ちました。みなさん、春の次はなんでしょう? ……そう夏です。

全員 (蝉しぐれ)ミーンミンミンミン。ミーンミンミンミン。…………ミッ。

 

   かえるのおばさん登場。

 

かえる ゲコゲコゲコゲコ。ゲロゲロゲーコ、ゲコゲコゲーロ。ああしかし、暑いわねぇ。夏が暑いのは冬が寒いからだというけど、本当のところはどうもそうじゃないらしい。夏が暑くないと夏休みがなくなるからだというのがもっぱらの意見よ。おや……。

 

   つばめが二羽、かえるをかすめて飛ぶ…SE。

 

かえる わんぱくつばめにおっとりつばめだわ。

わんぱく こんにちは、かえるのおばさん。

おっとり こんにちは。

かえる ああ、いつも元気でいいことだ。そうそう、おかあさんの調子はどうだい? 

わんぱく だいぶ元気になったよ。いつまでもくよくよしていられないさ。

かえる そうだわね。でもたったひとりのおかあさんだ。力にならなくちゃいけないよ。

わんぱく うん。じゃボクたち家に帰るから。

かえる ああ、気をつけて。

二羽 さようなら。(飛び去る)

かえる ゲロゲロゲーコ、ゲコゲコゲーロ。(帰る)

 

語り わんぱくつばめとおっとりつばめは自分たちの巣に帰ります。

 

   ◎転換…M音楽。

 

語り おかあさんつばめは巣で寝ているようですね。

 

   SE…遠く何かの物音。

 

語り ん? それとなにか物音がしてるようだわね……。なんだろう……?

 

   母つばめ、巣で寝ている。

   SEかすかに小さく鈍い物音がしている。

 

わんぱく (帰ってくる)おかあさん、具合はどう? 

母つばめ 寝かしておいてちょうだい……。

わんぱく あ、またなにも食べてない。食べなきゃダメだよ。(おっとりに)な。 

おっとり うん。ボクが代わりに食べてあげようか。

わんぱく こら。おっとり、おまえが食べてどうする?

母つばめ いいのよ、おっとりちゃん、食べなさい。

おっとり (モグモグと食べる)

わんぱく おかあさん、いつまでも死んだチビのことを考えないで。

母つばめ いいえ、あのときおかあさんが巣を離れなかったらあんなことにはなってなかった。おかあさんが悪かったのよ。

わんぱく ちがうよ。おかあさんは悪くない。

母つばめ (すすり泣く)

わんぱく 泣いてばかりいてどうするのさ。(飛び立ち巣を離れ)泣いてどうなるのさ。チビはもういないんだ。(飛び去るSE)

おっとり (モグモグ食べながら)わんぱくー! どこ行くんだよー!

 

   ◎転換…M

 

語り ひとり空を行くわんぱくつばめ。

 

わんぱく なんだ! なんだ! なんだ!

 

   おしゃれ、飛んでくる。(SE)

 

おしゃれ なに怒ってるの?

わんぱく だれだ?(涙ぬぐう)

おしゃれ わたしよ。おしゃれよ。

わんぱく おまえか。

おしゃれ なにプリプリしてるの。わかった、おかあさんに甘えられなくてすねてるんでしょ。

わんぱく うるさい!

おしゃれ 当たった。図星だ。

わんぱく いいから、ほっといてくれよ。

おしゃれ あなた、もしかして——

わんぱく なんだよ。

おしゃれ まだおかあさんから食べ物をもらってるんじゃない。

わんぱく そんなことあるか。ちゃんと自分で食べる物取ってるよ。

おしゃれ そぉう?

わんぱく 疑うのかよ。

おしゃれ だったら、あれ取ってご覧なさい。あそこのシオカラトンボ。

 

   シオカラトンボがこの前後に登場して棒の先に止まっていた。シオカラトンボは急に自分のことを話題にされて驚く。

 

シオカラトンボ シオ——?

わんぱく よし!

シオカラトンボ シオ、シオ、シオー!(逃げるSE)

わんぱく 待て、シオカラ野郎!

 

   Mドタバタ音。

   わんぱく、シオカラトンボを追う。シオカラトンボは必死に逃げる。

 

シオカラトンボ シオ、シオー!

 

   あっちこっちにぶつかったり、ひっくり返ったり、大騒動。

   とうとうわんぱくはシオカラトンボをつかまえる。

 

シオカラトンボ シオ~……。

わんぱく よっし!

シオカラトンボ シオシオ~。

おしゃれ やったじゃない。

わんぱく ——(じっとシオカラトンボの顔を見る)

おしゃれ (目をうるませて)シオ~……

わんぱく 今腹いっぱいだから、いらないや。(シオカラトンボを離してやる)

シオカラトンボ シオ、シオー!(飛んでいく)

おしゃれ フン、カッコつけちゃって。フフフ、でもそれなら南の島へ行けるかもね。

わんぱく 南の島?

おしゃれ 知らないの。わたしたちつばめは冬になる前にあたたかい南の島へ行くのよ。そうして春にまた戻ってくるの。

わんぱく へえ、そうなの。

おしゃれ もっと勉強しなくちゃダメね。

わんぱく うるさい。

おしゃれ 南の島はどんな所だろう。きっと花がいっぱい咲いて、きれいなチョウチョがいて、おいしそうな虫たちがたくさんいて、フフ、素敵でしょうね。

わんぱく フン。

 

   M(歌)

おしゃれ 空を飛ぶと 心はずむ

わんぱく 風は友だち 翼が踊る

ふたり  口を大きくあけて 青空吸いこんで

     とどけよう歌を 大好きなきみに

 

おしゃれ でも、あんたなんかきっと途中で怒り風に吹き飛ばされてしまうわ。

わんぱく いかりかぜ?

おしゃれ 南の島へ行く途中海の上で吹くものすごい風のことよ。悪さをしたものや弱い心のものを吹き飛ばして南の島へ着けなくするの。きっとあなたは怒り風に吹き飛ばされるわ。

わんぱく (不安だが)ボクは大丈夫さ。

おしゃれ そうかしら。もっともっとたくましくならないとダメね。パパがそう言ってたもの。わたしきっと行ってみせる南の島へ、パパとママが出会った南の島へ。

わんぱく そう言えばおまえ、兄弟いないの?

おしゃれ ——

わんぱく 家どこなの? おとうさん、おかあさんは?

おしゃれ いない——

わんぱく え?

おしゃれ みんなヘビに食べられたの。

わんぱく あ——、ごめん。

おしゃれ いいの。へっちゃら。

わんぱく ……。

 

   間。

 

語り あら、なんの音かしら。さっきから——大きくなって——

 

   SE何やら鈍い音がする。音が大きくなる。

 

おしゃれ あれ、なんの音かしら?

わんぱく うん。おかしな音。

おしゃれ あんたの巣の方からよ。

わんぱく ホントだ。

 

語り ふたりは急いで巣に飛んで帰ります。

 

   二羽、飛び去る。(SE)

   ◎転換…SE何かの物音。

 

語り 一方、つばめの巣にはおかあさんつばめとおっとりつばめ。……ああ、音が大きくなってきたわ。

母つばめ どうしたんだろうね。なんだろうね、この音は?

おっとり なんだろう?

 

   SE…巣が音とともにぐらぐら揺れ始める。

 

母つばめ ああ、いったいどうしたの、なにが起きたの……?

おっとり 巣が、巣が、ぼくらの家が……!

 

   「倒れるぞ」「気をつけろ」という人の大声。

   廃屋になってしまった酒屋を解体工事しているのだ。

 

語り ああ、わかったわ! つばめの巣がある酒屋さんを取り壊しているのね。解体工事をしてるんだわ。大変!

おっとり ああ、おかあさん!

母つばめ 人間が家をこわそうとしているんだわ。ああ、もうダメ。助けてー!

 

   SE(ガラガラガシャーンと大音響)

   (照明がピカピカ点滅…その中をつばめの巣のセットがスローでこわされていく…巣の裏側が解体ガレキ)

   巣がこわされ、メチャクチャになる。

   崩れ落ちるガレキが母つばめを襲う—おっとりが身を投げ出し母つばめをかばう—なおも崩れ落ちるガレキ——

 

語り わんぱくつばめとおしゃれつばめが戻ってきたわ。早く早く。ふたりがガレキの下敷きよ!

 

わんぱく ああ、家がこわされてる。おかあさん。おっとり。おかあさん!(こわれた巣の回りを飛ぶ)おかあさん返事をして。おっとり大丈夫か。おとうさん、おとうさん!

 

語り おとうさんつばめも帰ってきたわ。

 

父つばめ (急ぎ来て)どうしたんだわんぱく。あ、家がなくなってるじゃないか。

わんぱく おとうさん、おかあさんとおっとりが家の下敷きになってるんだ。

父つばめ なんだって! 早くふたりを助けるんだ。

 

   わんぱくたちは「おかあさん!」「おっとり!」と呼びかけながらガレキをのける。

 

おしゃれ あ、おばさんだ。

わんぱく おかあさん!

 

   母つばめをガレキの中から助け出す。

 

父つばめ おかあさん、大丈夫か。

わんぱく ケガはない? 

母つばめ ああ、わたしは平気。おっとりちゃんは、おっとりちゃんは……?

父つばめ ああ、こんなところに。(ガレキの下からおっとりを見つける。が動かない)なんてことだ、息がない……。

母つばめ この子はわたしをかばってくれたのよ。わたしをかばってガレキの下敷きになって……。(泣く)

 

   ピチュピチュピチュチューイ。

   ピチュピチュピチュチューイ。

 

   暗転…Mブリッジ。◎転換。

 

 

 

   第三景

 

語り 夏が過ぎました。夏の次は……、そう、秋です。

全員 (虫の音)スーイッチョスーイッチョ。リンリンリン。ギチョギチョギチョ。コオロギコオロギ。…………

 

   かえるのおばさん登場。

 

かえる ゲコゲコゲコゲコ。ゲロゲロゲーコ、ゲコゲコゲーロ。ああ、時が経つのは早いもんだね。これでもう何十回目の秋だろう。もうじき長く寒い冬がく る。その間は土の中でじっと眠る。このくり返しだわ。何十回も秋がきて冬がきて、何十回も春になり夏になる。くり返しくり返し。けれど一度だって同じ秋、 同じ春はなかった。不思議なことだわ。

 

   SEわんぱくつばめがかえるをかすめて飛ぶ。

 

わんぱく かえるのおばさん、なにをブツブツ言ってるのさ。

かえる ああ、こんにちはわんぱく。この秋で何十回目の秋か数えていたところさ。指が足んないんだけどね。

わんぱく ボク、秋は初めてだ。

かえる ほう。んじゃ初めての秋はどんなもんだい? 

わんぱく 山はなんであんなに紅に染まるんだろう。夕日はなんであんなにせつないんだろう。

かえる なぜだろうね。わっちにもさっぱりわからん。

わんぱく ……。ボクもう行かなきゃ。そろそろ旅立つときなんだ。南の島へ行くんだよ。

かえる ほうそうか。ご苦労なこったね。そうだ、あの女の子も一緒かい。

わんぱく あの女の子?

かえる あんたのかわいい彼女だよ。おしゃれつばめ。

わんぱく ボクの彼女なんかじゃないよ。

かえる そう言えばこのごろ姿を見かけないが、まさかヘビに——

わんぱく 南の島へ行ったんだよ、きっと。南の島へ行くのが待ちきれないって言ってたから。

かえる うん、そうだわね。

わんぱく おばさんはこれからどうするの? 

かえる わっちか? わっちもそろそろ冬眠の準備だわ。元気でね、わんぱく。

わんぱく おばさんも。さようなら。(飛び去るSE)

かえる ゲロゲロゲーコ、ゲコゲコゲーロ。(帰る)

 

語り わんぱくは巣のあったガレキの山に戻ってゆきます。

 

   ◎転換…M音楽。

 

語り そこにはおとうさんつばめとおかあさんつばめが……。

 

   わんぱくつばめ、ガレキの山に戻る。

   父つばめと母つばめがいる。

 

父つばめ (母つばめに)もうそこまで冬が近づいてる。ここをあとにしなくちゃならない。

わんぱく かあさん、冬がくるよ。元気を出して。

母つばめ わたしはいいの。ここに残るの。あなたたちだけで南の島へ行ってちょうだい。わたしは平気だから、気にしないで。

わんぱく ダメだよ、かあさん。かあさんひとり置いてけやしない。

父つばめ いつまでもここにいたら凍えて死んでしまうよ。

母つばめ いいのよ、死んだって。チビちゃんもおっとりちゃんもここで死んでしまったんだから。

わんぱく ダメだよ、かあさん。

父つばめ おかあさん……。

母つばめ ほっといて。

わんぱく ほっとけないさ。(連れていこうとする)

母つばめ やめて。いいのよ、おかあさんはここにいるの!

わんぱく よくないよ。よくないよ。ボクはかあさんを連れて南の島へ行く。だれがなんてったって連れていくよ。

 

   トわんぱくつばめ、母つばめを背負い飛び立つ。(SE)

 

語り わんぱくつばめは無理やりおかあさんつばめを背負うと、南の島目指して飛び立ちました。

   おとうさんつばめももちろん一緒です。

 

   Mテーマ曲静かにBGM。

   ◎転換。

 

父つばめ どうだい、おかあさんは?

わんぱく 寝てるよ。すやすやと寝息を立てて。きっと疲れてたんだ。

父つばめ どうだ、そろそろとうさんと交替するか。

わんぱく ううん、もう少しがんばるよ。

父つばめ そうか。無理をするな。

わんぱく うん。(と言うがフラフラしてしまう)

 

   SE…かわいい飛ぶ音。

 

語り あら、うれしい。おしゃれつばめが飛んできたわ。

 

おしゃれ なにフラフラしてるのよ。しっかりしなさい。

わんぱく おしゃれ! おまえまだ行ってなかったのか。

おしゃれ 余計なお世話よ。

わんぱく もしかして、ボクたちが南の島へ行くのを待ってたのか。

おしゃれ ワッ、かんちがい。女の子はね、支度に時間がかかるのよ。さ、早くいらっしゃい、フラフラつばめさん。(トわんぱくの回りを小馬鹿にするように飛び回る)

わんぱく なにを!

父つばめ ハハハ、おまえたちはけんかばかりだな。

わんぱく だってあいつが——

父つばめ けんかするほどなんとやらだ、——ん、なんだ?

わんぱく 雨だ。

 

   SE…一滴二滴、白い雨粒(…太鼓)。

 

おしゃれ 雲行きがあやしくなってきたわ。ああ、きっと怒り風が吹くんだ。わたし、先に行くわ!(SE飛んでいく)

わんぱく おい、おしゃれ! とうさん、ボクらも。

父つばめ ああ、急ごう。(飛び去るSE)

 

   M・SE次第に雨風が強くなる。(一旦空舞台)

 

   父つばめと、母つばめを背負ったわんぱくが再び飛んでくる。

 

父つばめ ああ、しまった。どうやら嵐の渦に巻きこまれてしまったらしい。

わんぱく 嵐の渦!

 

   四方から突風!(四台の扇風機の強風…先に布リボン)

 

わんぱく・父つばめ ああっ!

父つばめ 渦の中から抜け出すんだ。(羽を出す)つかまって。おかあさんを離すんじゃないぞ。

わんぱく うん。

 

   ますます嵐が激しくなる。(嵐の様子の表現…扇風機を縦横斜めに動かす…紙吹雪を飛ばす)

   母つばめ、目を覚ます。

 

母つばめ どうしたのいったい? ああ、ああ!

わんぱく 大丈夫だよ、かあさん。

母つばめ ああ、助けて。助けて!

わんぱく すぐにこの渦から抜け出すから。

父つばめ いかん。嵐がますます強くなってくる。怒り風だ。ああ!

 

   M突風。(4台の扇風機で一気に)父つばめを襲う。

 

父つばめ ああ!

語り おとうさんつばめが飛ばされそう!

わんぱく とうさん、とうさん!(羽を伸ばす)

父つばめ ああ!(その羽につかまろうともがく)

母つばめ 助けて、助けて。おとうさん……。(気を失う)

わんぱく ああ!

 

   わんぱく、母つばめの重みによろめき、父つばめと羽と羽とが結べない。

   M・SE…一陣の怒り風。(雨滴が激しく当たる…紙吹雪が一斉に襲いかかる)

   父つばめ、風に飛ばされる。

 

父つばめ ああっ!

わんぱく とうさーん!

父つばめ おかあさんを、頼んだぞー……!(SE消え去る)

わんぱく とうさん、とうさん!

おしゃれ キャー!

 

   M・SE…おしゃれ、風に飛ばされてくる。

 

わんぱく あっ、おしゃれ、つかまれ!

おしゃれ 助けて! 助けて!

わんぱく そら、ここだ!(おしゃれの羽をつかむ)

おしゃれ ああ! ありがとう。

わんぱく うん。

おしゃれ キャー!

 

   M…トまた怒り風が吹く。おしゃれを襲う。

 

わんぱく (嵐に翻弄されながら)ああ、もう羽がちぎれそうだ。雨と風で目も開けてられない。とうさん、ボクはどうしたらいい。ああ、気が遠くなりそうだ。このままだと嵐に飲みこまれて死んでしまう。

おしゃれ わたしを離して。

わんぱく いやだ、いやだ! みんなで南の島へ行くんだ。

おしゃれ わんぱく。

わんぱく かあさん、かあさん、ねえ、起きてよ。ボクを励ましてよ。どうしたらいいの。このまま死んでしまうの、チビのように、おっとりのように。そしたらかあさんは、ボクのために少しは泣いてくれる……? かあさん——

 

   M…また一陣の怒り風!

   おしゃれつばめに雨滴が激しく当たる(紙吹雪が一斉にかかる)。

 

おしゃれ キャー!(気を失う)

わんぱく おしゃれ、しっかりしろ! ああ、もうダメだ。羽がちぎれる。

 

   M・SE激しく荒れ狂う嵐! 嵐! 嵐!

 

語り この時、心が折れそうなわんぱくの耳に、なつかしい声が聞こえてきたの。

チビつばめ がんばれ、わんぱく!

おっとりつばめ わんぱく、がんばれ!

 

   頭に天使の輪っかをつけたチビとおっとりがわんぱくを助けるように現れる。

 

わんぱく ああ、チビ! おっとり!

チビ・おっとり わんぱく!

わんぱく ああ、その頭の輪っか! ……ボクたちを迎えに来たんだね。

チビ ちがうよ、わんぱく。

おっとり わんぱく、ちがうよ。

わんぱく でも——おまえたちが来てくれて、怒り風も嵐も疲れも、なにも感じない。ボクは死んだんだろ——

チビ バカ!

おっとり バカ!

わんぱく ——

チビ がんばれ、わんぱく。南の島へ行くんだろ。

おっとり そうだよ、わんぱく。もうかあさんを悲しませちゃいけないよ!

チビ がんばって、みんなで南の島へ行くんだ!

わんぱく チビ、ボクのこと怒ってないのか。おっとり、ボクを恨んでないのか。

チビ ボクたち兄弟だろ、わんぱく。

おっとり わんぱく、兄弟だろ。

わんぱく チビ……! おっとり……!

チビ さあ、かあさんを守るんだ。

おっとり おしゃれを守るんだ。

チビ そうして生きて、とうさんと南の島へ行くんだ。

おっとり ボクらの分まで生きるんだ。

わんぱく うん。——ボクは負けない。こんな怒り風なんかに負けてたまるか。かあさんが泣くのを見るのはもうたくさんだ。ボクは負けない。かあさん! とうさん! おしゃれ! チビ! おっとり! ボクは負けない、負けない。…………

 

   嵐、ますます強くなる。(紙吹雪…流れる黒雲)

   わんぱくつばめ、嵐に翻弄されながらもチビとおっとりとともに前へ、前へ。

 

   溶暗。

   M・SE…嵐の音止む。

   Mブリッジの音楽。

   (◎転換)

 

 

 

   第四景

 

語り さてさて、時は流れて、また新しい春がやってきました。

   花は咲き、鳥たちがさえずっています。

全員 (幕から一斉に顔を出して。様々な鳥の鳴き声)

   ピチュピチュ。チュンチュン。ピーヒョロロ。カーカー。ホーホケキョ。…………

語り あ、また、かえるのおばさんの登場です。

かえる ゲコゲコゲコゲコ。(眠そうに)ゲロゲロゲーコ、ゲコゲコゲーロ。(あくび)あああ。本当によく寝た。あああ、またひと冬こして春になった。あったかくなってきて、身体がムズムズする。

 

   ヘビの女王登場。

 

ヘビ (あくび)あああ。本当によく寝た。寝すぎて腹がへった。あ。

かえる あ。

ヘビ かえるだ。うまそう。

かえる 助けて、ゲロゲロ。(動けなくなる)

ヘビ 弱いものは強いものに食べられる、それが自然の掟だ。観念しろ。

かえる だれか助けて、ゲコゲコ。

 

語り ヘビの女王がかえるを食べようとした、その時でした。

 

   わんぱくつばめが元気よく飛んでくる。(SE)

 

ヘビ なんだ、なんだ?

わんぱく ほら、ボクだ、ここにいる。かえるのおばさん、もう大丈夫だよ。

かえる わんぱくつばめ!

ヘビ あ、おまえはあのときのつばめだな。

わんぱく そうさ。

ヘビ なにが「そうさ」だ。ひとりならおまえなんか怖くない。おまえから食べてやる。

わんぱく ひとりじゃないさ。おーい!

 

   SE…父つばめ、母つばめ、そしておしゃれつばめ登場。

 

わんぱく それ!

 

   M…みんなで連なって飛び、大鷲になる。(前のよりバージョンアップ!)

 

ヘビ ああ、大鷲だ。えらいこっちゃ、えらいこっちゃ。

 

   ヘビ、あたふたと逃げていく。

 

わんぱく ハハハ。もうここには来るんじゃないぞ。かえるのおばさんケガはない?

かえる ああ。ありがとう、わんぱく。みんな、よく帰ってきたね。

つばめたち かえるのおばさん、今年もよろしく。

かえる こちらこそ。

 

   わんぱく、辺りを見回す。

 

わんぱく かあさん、ここは前となにひとつ変わっちゃいないよ。

母つばめ ああ、そうだね。本当にね。またこれてよかった。

 

   母つばめ、巣のあった辺りに花を二つ手向ける。手を合わせる。

   それをみんなが見守る。手を合わせ祈る。

 

わんぱく とうさん、とうさん。

父つばめ なんだい? 

わんぱく 今年は一から巣をつくろう。力を合わせて巣をつくろう。

父つばめ よしきた。でも……

わんぱく でも?

父つばめ 今年は巣を二つつくらなくちゃいけない。

母つばめ そう、二ついるわ。ね、おしゃれちゃん。

おしゃれ いやだ、おかあさんったら。(顔を赤らめる)

わんぱく (照れて)とうさん。かあさん。

かえる ええ! ということは、ふたりは結婚するんだね。ヒューヒュー。

シオカラトンボ シオーシオー!(いつの間にかいる)

おしゃれ もう、ヤダッ!(恥ずかしくてかえるのおばさんをぶっ叩いてしまう)

かえる アイタタ。ひっくりカエルわよ。……そうだ、前に酒屋さんがあった所にコンビニができてる。あそこに巣をつくるといい。

わんぱく よし、巣をつくろう、力を合わせて。

おしゃれ ええ、力を合わせて。

母つばめ そして子どもをつくりなさい。いっぱい、いっぱい。

おしゃれ はい。

父つばめ 負けないぞ、とうさんたちも! ハハハハ。

母つばめ まあ、いやだ。おとうさんったら。

かえる めでたい、めでたい。ゲロゲロゲーコ、ゲコゲコゲーロ。

シオカラトンボ シオーシオー!

わんぱく そうだ。歌をうたおう。ねえ、みんな。

シオカラトンボ シオーッ!

 

   M(歌)

    空を飛ぶと 心はずむ

    風は友だち 翼が踊る

    口を大きくあけて 青空吸いこんで

    とどけよう歌を 大好きなきみに

 

   歌がくり返される中、みんながお辞儀をして去ってゆく。

 

   やがて手向けたふたつの花に明かりだけが残り…………

 

                     (おしまい)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◎舞台づくりメモ(ある日のある公演)

・みんなで一緒に創りましょう。

・それぞれ担当を決めておくとスムースにいくでしょう。

 

☆舞台係(大道具)……

・黒幕を舞台後ろと、両袖に張る。

・巣のセットを作る。……裏返すと瓦礫になる。

・かえるの乗る台(池の石)。

 

☆小道具係……

・つばめの卵の殻(白布または白服)

・食べる虫のぬいぐるみ

・ヘビのしっぽ(大きい物)

・嵐の場面……扇風機。延長コード。……紙吹雪。紙・布(色)テープ。新体操に使うようなリボン。

   黒雲の布。

   他にいろいろ飛ばされてくる物。例……鳥。屋根。看板。魚。…………

・天使の輪っか

・手向けの花二つ

 

☆衣装係……

・それぞれの役の特徴を表せる物を一点アクセントに。……帽子やスカーフなど。

・つばめの羽根。色違いの布……嵐の場面で羽根が風になびくような。蝶ネクタイ。

・ヘビの女王のコスチューム。(胴体の長さを表せるもの)

 

☆音楽係……

・歌や効果音。嵐の場面など。

 

☆効果音係……

・つばめの飛ぶ音……笛。雨……太鼓。解体工事音。等々。

 

☆照明係……

・しっかりプランを立てましょう。……費用必要。予算に応じて考えます。

 

コロス係(=スタッフ)……

・場面転換や嵐の場面など。(出番でない所では演者のみなさんにも場面転換などやっていただきます)

・黒の上下の服。(衣装の下に、または上から)

 

☆他、いろいろ気づきやアイディアがあればおっしゃって下さいね。