朗読劇・ブレーメンの音楽隊
台本/広島友好
題名 「ブレーメンの音楽隊」
歌 ♪ブレーメン! ブレーメン!
素敵な街 愉快な街
みんなが 陽気に歌ってる
きょうは どんなにつらくとも
あしたは 立派な音楽家
ぼくら ブレーメンの音楽隊
めざせ! いこう! ブレーメン!
あしたはきっと ブレーメン!♪
ロバが出てくる。
ロバ むか~しむかしのこと、ある所にロバがいた。ヒヒ~~ン。(ロバのマイム…手はひづめで駆け、後ろ足を蹴る)
ロバのあたしは、ある男に飼われてた。
飼い主の男が出てくる。(ロバの回想)
ロバ あたしは長い年月(としつき)、辛抱強く働いた。小麦の入った袋をしょって粉ひき場のある水車小屋まで毎日運んだ。雨の日も風の日も、日差しの強い夏も冷たい雪がふる冬も、一生懸命働いた。
飼い主の男は麦袋を運ぶロバにムチをくれてやっている。
ロバ けれども今では身体中にガタがきて、仕事ができなくなってしまった。つまり働きすぎたのさ。すると飼い主の男は手のひらを返したみたいに、あたしを叱りつけた。
飼主 この役立たず! おまえは小麦を運ぶしか能がないのに、その小麦さえ運べないなんて。
ロバ ヒヒ~~~ン。(情けなくて泣く)
飼主 もうこれ以上おまえにエサをやることぁないなァ。いっそのことおまえを……
ロバ あたしは風向きが悪くなったので男の家を逃げ出した。(逃げ出していく)
飼主 あ、あれ? ロバのやつ。ロバ! どこだ? ロバ!(ロバを探して去る)
ロバ、雑木の陰から現れ、
ロバ さて、どうしよう? 家を飛び出したはいいけれど、当てがあるわけじゃなし……。ん、そうだ。あの飼い主の男の友達がこんな話をしてたっけ。ここか
らずうっと先のブレーメンって街で音楽隊の楽師を探してるって。よぅし、そこに行けば音楽隊に入れるかも。このままここにいても仕方ないし。それになん
たってこのひづめは、太鼓を鳴らしたみたいにいい音がする!
早速あたしはブレーメンの街目指して駆け出した!
歌 ♪ブレーメン! ブレーメン!
素敵な街 愉快な街
みんなが 陽気に歌ってる
きょうは どんなにつらくとも
あしたは 立派な音楽家
ぼくら ブレーメンの音楽隊
めざせ! いこう! ブレーメン!
あしたはきっと ブレーメン!♪
ロバ あたしがしばらく歩いてると、猟犬が道端に寝転んでるのに出会った。イヌは駆け回って疲れたようにハアハア言ってた。イヌのやつはいつもあたしらロ
バにキャンキャン吠えて怖いんだけど……やっぱりちょっと気になるなァ。(イヌに)ねえねえ、なんだってそんなにハアハア言ってるの、かみつき屋くん。
イヌ ハアハア……ハアハア。わしは年を取って老いぼれて、日増しにモウロクしてしまってなァ。今では狩りのお供に出かけても走れなくなってしまった。だもんだから、ご主人がこのわしを……
ご主人が舞台の一方に現れ……(イヌの回想)
主人 (猟銃を担いでいる)おいおい、おまえはすっかり老いぼれて獲物も追えないとんだ足手まといだな。若いころはウサギやキツネを威勢良く追いかけまわ
して、狩りをよぅく手伝ってくれたが。今となっちゃ、残念だが……(猟銃をイヌに向ける)……バーンッ!とやるしかないかなァ。ハハハハハ!(自分のこの
冗談が気に入ったのか笑いながら去っていく)
イヌ ウォウォ~~~ン!(情けなくて泣く) だもんだから、ご主人がこのわしをぶち殺そうとしてるんだワン。だから逃げ出してきたんだ。ハアハア、しゃべるだけでも息切れがする。これからどうやって飯にありついたらいいものやら。泣けてくる。ウォウォ~~~ン!
ロバ それじゃどうだい、かみつき屋くん。これからあたしはブレーメンの音楽隊に入るつもりなんだけど、あんたも一緒に入れてもらったら。
イヌ なに? ブレーメンの……
ロバ 音楽隊。きっと楽しいよ。あたしが太鼓、あんたはラッパを吹いたらいい。イヌの遠吠えみたいにね。
イヌ できるかな、わしに……
ロバ さあ、どうかな。でも――やってみる価値はあるよ。野たれ死にするよりはね。
イヌ ……よし、わしも連れてってくれ!
ロバ よしきた! でも、その代わり……
イヌ その代わり?
ロバ かみつかないでくれよ。
イヌ かみつかないさ、かみつきたいけど。かみつくのはわしの愛情表現なんだが、おまえさんがイヤならかみつきゃしないさ。
ロバ じゃ決まりだ。一緒に行こう、ブレーメンへ!
イヌ ブレーメンへ!
歌 ♪ブレーメン! ブレーメン!
素敵な街 愉快な街
みんなが 陽気に歌ってる
イヌ きょうは 足腰立たずとも
イヌ あしたは 元気な音楽家
歌 ぼくら ブレーメンの音楽隊
めざせ! いこう! ブレーメン!
あしたはきっと ブレーメン!♪
ロバ/イヌ しばらく行くと二人はネコに出会った。
ロバ ずいぶんヨボヨボのばあさんネコだ。
イヌ ネコは道端にうずくまって、雨が三日も降り続いてビショぬれショボぬれになったような、不機嫌で情けない顔をしていた。
ロバ ようよう、なにをそんなにふさいでるの、顔なでばあさん。
ネコ 自分の命が風前の灯みたいにあぶないってのに、だれがのんきに浮かれていられるかね。
イヌ そりゃどうしたわけだワン?
ネコ 実はね、あたしゃもう年だ。歯はグラグラ目はショボショボ。ネズミを追っかけるより、ストーブのそばで日がな一日のどをゴロゴロ鳴らしてるほうが楽チンなんだニャ。でもそれを見たうちのおかみさんが……
おかみさんが舞台の一方に現れて……(ネコの回想)
おかみ なんだい、このネコは! 朝から晩までストーブのそばで日向ぼっこかい。それでもネズミを取ってくれりゃましだけど、今じゃネズミに追われる始
末。おまけに身体中ノミだらけ。(自分の身体をかく)アアッ、こっちまでかゆくなるよ。用なしの役立たずは川にでもぶちこんでブクブクおぼれさせてやろう
かね、まったく!
ネコ ミャミャミャ~~~ン!(情けなくて泣く)
おかみ (台所を見て)あ、シチューが吹きこぼれてる! (ネコに)そこで待ってるんだよ、老いぼれネコめ!(急いで台所へ去る)
ネコ てわけで、うちのおかみさんがあたしを川へぶちこもうとしたのさ。そこで逃げ出してきたんだけど、この先どうしたもんやら、どこへ行けばいいのか、ニャンとしたものか。ああ、ニャ(泣け)けてくる。ニャニャニャ~~~!
ロバ それじゃどうだい、顔なでばあさん。一緒にブレーメンへ行かないか。あたしらブレーメンの音楽隊に入るつもりなんだよ。
イヌ ちょっと待った。わしはネコは嫌いだワン。ネコほど虫唾の走るものはない。口ばかり達者でいつも寝てばかり。気まぐれで遊び好き。好きなときに好きなことしかしない。
ロバ でも、二人より三人のほうがきっと音楽隊は喜ぶよ。三人いればいろんなハーモニーが奏でられるからね。
イヌ ハーモニー? なんだそりゃ? 食えるのか?
ロバ 食えやしないけど、うまくいくのさ。
イヌ そんなもんか?
ロバ そんなもんさ。(ネコに)どうする、ばあさん。
ネコ でもね、あたしゃ年だし。嫌われもんだし。
ロバ そんなことないよ。あんたが真夜中に歌うセレナーデは飛び切り素敵だよ。だからきっと音楽隊にイの一番で入れてもらえる。
ネコ 夜にミャオミャオ歌うのならお手の物さ。でも、それでいいのかい?
ロバ それがいいのさ。
ネコ なるほど、そりゃいい話だ。乗ったよ、あたしゃ!
ロバ じゃ決まりだ! 行こうみんなで、ブレーメンへ!
イヌ/ネコ ブレーメンへ!
歌 ♪ブレーメン! ブレーメン!
素敵な街 愉快な街
みんなが 陽気に歌ってる
ネコ きょうは 涙もかれたけど
ネコ あしたは 笑顔の音楽家
歌 ぼくら ブレーメンの音楽隊
めざせ! いこう! ブレーメン!
あしたはきっと ブレーメン!♪
三匹 やがてあたしら三人はある百姓家のそばを通りかかった。
イヌ するとオンドリが門の上にとまって、身体中の力を振りしぼり声を限りに鳴いていた。
トリ コ、コ、コ、コケコッコーーー!
ロバ おいおい、きみの鳴きっぷりは骨の髄から腹の底まで染み渡るようだねぇ。いったいどうしたんだい?
オンドリ きょうはいい天気だぜって知らせてるのさ。きょうの天気はケッコーケッコー、コケコッコ~~~!(ト鳴きながら泣いている)
ネコ それにしちゃ、なぜ涙なんか流してるのさ?
トリ きょうは聖母マリア様の日で、マリア様がイエス坊やの肌着を洗濯して乾かす日さ。そんでもってあしたは日曜で、うちには大勢お客が来る。そしてねぇ、ひどい、コケコッコ。うちのマダムったら血も涙もないよ、このぼくを……
マダムとコックが舞台の一方に現れて……(オンドリの回想)
マダム さあ、あしたは日曜で、うちには大勢お客様がおみえになるよ。恥はかけないからね。たんとおいしい料理を作っておくれ。特性スープなんていいかもね。
コック ウイッ、マダム。……しかし……
マダム しかしもかかしもないよ、なんだい?
コック あいにくスープに入れる材料がございません。今年は飢饉に旱魃で農作物は一つも取れず――
おかみさん あるでしょ。
コック え? まさか?
マダム まさかもとさかもないよ。いるでしょ、あの丸々と太ったオンドリが。コケコッコのコケ子ちゃんが。
コック あれをスープに! なんと!
マダム なんともほくともないよ。きっと脂たっぷり旨味たっぷりのおいしいスープができるでしょうよ。あれはオンドリで卵も産まないし、毎朝コケコケうるさいしね、都合がいいよ。わかったら、さっさと料理に取りかかっておくれな。
ロバ ウイッ、マダム。
マダムとコックは相談しながら去っていく。
トリ ほんとねぇ、ひどい、コケコッコ。うちのマダムったら血も涙もないよ、このぼくをスープに入れて料理しちまえってコックに言いつけた。きょう日が沈
んだら首をちょん切られる運命。だから鳴ける間にのど振りしぼって鳴いてるのさ。ケッコーケッコー、コケコッコ~~~!(情けなくて泣く)
ロバ それじゃどうだい、赤いとさかのオンドリ君。いっそのこと一緒に逃げたら。あたしらブレーメンの音楽隊に入るんだ。
トリ ブレーメン……! あそこは都会だろ。人も多くて怖くないかい?
ロバ そりゃ都会で怖いかも。でも怖くったって、死ぬよりゃましだろ。きみはいい声してる。あたしらが一緒に歌えば、いい線いくと思うんだ。
トリ ふ~む。(独り言)ロバはノロマでマジメすぎて好きじゃないが、背に腹はかえられない。(ロバに)よし、わかった。のどなら自信あるよ。コケコッコー。一緒に行こう。よろしく頼むよ。
オンドリはロバと握手を交わす。そのうしろでネコが……
ネコ (独り言。オンドリを見て)それにしてもうまそうなお尻だニャ。マダムがスープにしたがるのもわかるよ。あたしもパクリと――
トリ (気配を察して振り返る)ん? なに?
ネコ べ、別に……ニャンでも……。ニャハハハ……(笑ってごまかす)
トリ ……?
ロバ さあ! 行こうみんなで、ブレーメンへ!
三匹 ブレーメンへ!
歌 ♪ブレーメン! ブレーメン!
素敵な街 愉快な街
みんなが 陽気に歌ってる
トリ きょうは 希望もつきたけど
トリ あしたは 明るい音楽家
歌 ぼくら ブレーメンの音楽隊
めざせ! いこう! ブレーメン!
あしたはきっと ブレーメン!♪
しかし、四匹の歌声はちっとも調子が合っていない。
ロバ 待って待って! バラバラに好き勝手やっちゃダメだよ。大事なのはハーモニーだ。――よぅし、音楽隊に入れるよう練習しながら行くとしよう。
トリ そんな練習しなくても、上手に歌えばいいんだろ。見てな。(オペラ調)コケコケコ~~~~~~!
ロバ ダメだよ。四人が気持ちを合わせなきゃ。音楽隊なんだから。
ネコ 張り切らなくったって適当にやってれば大丈夫よ。ああ、眠い。
イヌ (ネコに怒って)ワンッ! その態度はなんだ。さっきまでショボくれてたのに!
ネコ ニャによ。威張ってばかりで。人間がついてなきゃ、あんたなんか怖くないわ。
イヌ なにぃ!
ロバ ダメだよ、けんかしちゃ!
イヌ (ロバに)なんだワン! 偉そうにっ。味方してやったのに。
ロバ アアッ、かみつかないでくれよ。
トリ もうっ、わかったから。とっととすましちまおうぜ。(独り言)しかしロバ君にうまく指揮ができるのかな? お手並み拝見。
ネコ (オンドリに)あんた、いいねぇ。そうやって立ってるだけで美味そうで……あ、いや、格好よくて。
トリ 気持ち悪いな。なんだかよだれがたれてるぞ、顔なでばあさん。
ネコ ニャニャニャ!(顔をなでてよだれを拭いてごまかす)
ロバ とにかくやろうよ、みんな! 音楽隊に入りたいんだろ。
三匹 (投げやり)はいは~い。
ロバ いいかい、気持ち合わせて。ハーモニーだからね。和音だからね。
ロバの指揮に合わせて、四匹でハーモニーを奏でていく。まずはドミソの和音。
ロバ ♪ブーーー(「ド」の音で「ブ」と声を伸ばす)
イヌ ♪ブーーー(ロバを真似る)
トリ ♪レーーー(「ミ」の音で「レ」と声を伸ばす)
ネコ ♪レーーー(ロバを真似る)
ロバ ♪メンーーー(「ソ」の音で「メン」と声を伸ばす)
トリ ♪メンーー?(ロバを真似ようとするが音が微妙にズレる)
♪メンーー?(また音がズレる…皆がずっこける)
♪メンーー?(また音がズレる…皆がずっこける)
ロバ ちがうよ、音が。
トリ わざとじゃないよ。気持ちを合わせるのが難しいんだ。ずっと一人でコケコケ歌ってきたからね。
ロバ これからはみんな一緒さ。だから、心合わせて。
先ほどと同じように。
ロバ ♪ブーーー(「ド」の音で「ブ」と声を伸ばす)
イヌ ♪ブーーー(ロバを真似る)
トリ ♪レーーー(「ミ」の音で「レ」と声を伸ばす)
ネコ ♪レーーー(ロバを真似る)
ロバ ♪メンーーー(「ソ」の音で「メン」と声を伸ばす)
トリ ♪メンーーー(ロバを真似る。今度はうまくいく)
四匹 ♪ブレーーメーーーン!(見事にハモる)
ロバ よし、いいぞ!
次は「レファラ」の和音。
ロバ ♪ブーーー(「レ」の音で「ブ」と声を伸ばす)
イヌ ♪ブーーー(ロバを真似る)
トリ ♪レーーー(「ファ」の音で「レ」と声を伸ばす)
ネコ ♪レーーー(ロバを真似る)
ロバ ♪メンーーー(「ラ」の音で「メン」と声を伸ばす)
トリ ♪メンーーー(ロバを真似る)
四匹 ♪ブレーーメーーーン!(見事にハモる)
ロバ よし! ♪行こう、ブレーーメーーーン!
四匹 (ハモって)♪行こう、ブレーーメーーーン!
ト調子よく音楽が入って歌になろうとするが……
空に月が出る。
四匹 あれあれ、日が暮れてきた……!
ロバ けれどもブレーメンの街へは一日ではたどり着かなかった。森に差しかかるころ、とっぷりと日が暮れてきた。あたしら四人は――あ、ほら、あそこに大きな木がある。あそこで夜を明かすとしよう。
ネコ あたしゃこの根っこの所がいいニャ。
イヌ ワンッ! そこはわしの陣地だワン。
ネコ なにさ、少しはレディに遠慮しなさいよ。
イヌ レディって顔か。レバーみたいな顔して。
ネコ ニャにぃ! ワン公め! じゃ、問題です。1+1=
イヌ ワンッ。
ネコ 2+2=
イヌ ワンッ。
ネコ 3+3=
イヌ ワンッ。ワンッ。ワンッ。
ネコ ちがうニャ。全部はずれ。
イヌ くやしいっ。ワンッしか言えない。
ロバ 何度言ったらわかるの、けんかはダメだよ。ばあさんは木の幹に登れるだろ。しなやかな手足があるんだから。
ネコ (褒められて気分がいい)ま、ね。イヌのがさつな手足じゃ木登りはできないだろうからね。
イヌ ワンッ!
ロバ さあさあ。
四匹はそれぞれ自分のお気に入りの場所に寝る。
ロバ ロバのあたしと、
イヌ イヌのわしは、
ロバ/イヌ 大きな木の根っこに横になろう。
ロバ (独り言)しかしイヌのじいさん、寝ぼけてかみつきゃしないかな。
イヌ (独り言)アアッ、まだくやしい。ネコのばあさんだけは許せんなァ。
ネコ ネコのあたしゃ木の幹に寝るよ。
トリ オンドリのぼくは木のてっぺんに。(独り言)ヘヘッ。みんなは知らないだろうけど、ここが一番安全で安心なんだ。
ネコ (独り言)あれあれ、オンドリのやつ、あんな高いとこに寝ちゃ、パクッと食べられないねぇ。
トリ (独り言)それにしてもあしげのロバ君はマジメすぎてリーダーには向かないな。いっそのことこのぼくが……
ロバ それじゃみんな、おやすみ~。
みんな おやすみ~。(みんなバラバラ)
遠くでフクロウの鳴き声。…………
ネコ 寝たかい、みんな。
三匹 …………。
ネコ 夜は目が冴えちゃって。あたしゃ、夜行性だからねぇ。
ロバ 音楽隊は朝が早いよ。さあ、寝た寝た。
三匹 …………。
ネコ 寝たかい、みんな。……ああ、なんだかさみしいねぇ。ここは寒いし。あったかいストーブが恋しいよ。家に帰りたくなってきたニャ。
ロバ 家に帰るなんてあたしはヤだな。
イヌ どうして?
トリ ぼくなんか家だってどこだって、安心して歌ってられりゃ幸せだけど。(周りを見て用心している)
ロバ あたしはイヤ。自由がいい。生まれてからずうっと家と粉ひき場の往復だったんだもの。自由な時間はまったくなし。毎日毎日、土曜も日曜も。もう少しで背骨が折れるとこだったよ。今あたしは初めて、自由だ。怖いくらいだ。あしたっから命令されなくて済むんだもの。
イヌ そうさ。わしらは自由だ。前に進むしかないのさ。
ネコ ニャに言ってんの。あんたは後ろに下がる下がり方がわかんないだけ。ワンワン吠えて、前に突っ走るだけ。
イヌ なにを! 黙って聞いてりゃホントのことばかり言いやがって!
ネコ ニャに? ホントのことならいいじゃない。
イヌ よかないワンッ!
ロバ またけんかだ。寝られやしない。
トこのとき――
トリ ねえねえ、見て見て! 遠くのほうにチラチラ火が燃えてる。ぽつんと明かりが。ここから遠くない所に家があるにちがいない。ねえ、あそこに行ってみようよ。
ネコ ニャに? 家が?
ロバ どうだい、みんな? 行ってみるかい?
三匹 うん、行こう行こう!
ロバ じゃ、決まりだ。さあ、お尻を上げて。ここは居心地がよくないし、真っ暗でちょっぴり怖いし。さあ、もう一踏ん張り。
イヌ ああ、あそこの家に肉の付いてる骨があったら――
ネコ あったかいストーブがあったら――
イヌ/ネコ (腕を組んで一緒に)いいのになぁ!
が、すぐに気づいて、腕を離す。
イヌ/ネコ フンッ!
ロバ ……さあ、行こう!
みんなは小声で歌をうたいながら行く。
ロバ (歌の中で話す)みんなは明かりのほうへ……明かりはだんだんはっきり大きくなった。とうとう、こうこうと明かりを灯した家に着いた。
ネコ ちょっと待って。用心して。この屋敷の中でする声は……前の前の前の飼い主の声! 大泥棒クロワッサン! もしかしたらここ、泥棒屋敷じゃない!
ロバ よぅし、みんな、ここは取りあえず――帰ろう。(きびすを返し来た道を戻ろうとする)
トリ 待てよ。リーダーだろ。しっかりしろよ。
ロバ でも怖いし。歯科医師の次に。
イヌ (ロバに)ワンッ!
ロバ はい、しっかりしますっ。
イヌ 一番背の高いロバ君が窓に近寄って中をのぞくんだ。
ロバ よぅし! ……でもみんなついてきてね。
みんなは家の裏手へ。(幕の陰へ)
一方、家の中では大泥棒クロワッサンと手下のシロワッサンがご馳走をたらふく食べ、お酒をたんまり飲んで騒いでいる。泥棒稼業で大儲けして祝杯をあげているのだ。
泥棒 アハハハハ! それでよ(大ジョッキのビールを飲み、骨付き肉にかぶりついている)、おれ様が言ってやったわけだ。
手下 なんでしょう、親分。
泥棒 おい、命が惜しかったら有り金みんな出しやがれってな。
手下 さっすが、親分。(口とは裏腹。一生懸命食べていて、話など聞いてない)
泥棒 そしたら、相手はビビりやがって、こう言うんだ。
手下 なんでしょう、親分。
泥棒 命ばかりはお助けを。あとは金でも宝石でも、うちの古女房でもなんなりと持ってって下さい、とこういうわけだ。
手下 さっすが、親分。
泥棒 おれ様は言ってやった。てめえの年食った、シワのたるんだ、腹のタポタポゆるんだ古女房なんて用はねえ。金だ、金出せ、宝石だってな。
手下 さっすが、親分。
泥棒 そこでおれ様はそいつのパンツを引っぺがしてやった。
手下 さっす……パ、パンツ?
泥棒 パンツの下にお宝を隠してやがったのさ。ひでえ野郎だぜ、悪徳銀行の頭取ってのは。しかしおれ様の目はごまかせなかった。やつは女房も置いてスタコラサッサ逃げちまったってわけだ。
手下 さっすが、親分!
泥棒 だろ! アハハハハ!
お泥棒クロワッサンと手下のシロワッサンは笑い合う。
一方、ロバが窓から家の中の様子をのぞいている。そのそばにイヌとネコとオンドリ。
トリ ねえねえ、なにが見えるよ、あしげ君。えらくご機嫌のようだけど。
ロバ なにが見えるって、ご馳走の山だよ。素敵な食べ物やおいしそうな酒やジュースが並んでる。それを泥棒たちがご機嫌で食べてるよ。
トリ それがぼくらのご馳走だったらなァ!
ロバ そうとも、みんなでご馳走が食べられたらどんなにいいだろ。
イヌ 腹へったぁ。おい、食っちまおうよ。
ロバ そうだな。
トリ そうだよ。
ネコ でもどうやってさ?
ロバ 協力し合ってさ。三人寄れば文殊の知恵。四人集まれば……ヒソヒソヒソ……
四匹は相談をする。
ロバ (相談中に話す)そこでみんなは相談した。どうやって泥棒を追っ払って、ご馳走を手に入れるか?
四匹 ヒソヒソヒソ……
ロバ いいこと思いついた! いいかい、みんな。
ロバのあたしが前足を窓にかける。
イヌ イヌのわしがひょいとロバ君の背中に乗る。
ネコ ネコのあたしゃひらりとイヌのじいさんの上に。
トリ オンドリのぼくはバタバタッと顔なでばあさんの頭の上にとまる。
四匹 よぅし、それ、かかれ!
四匹は窓から顔をのぞかせる。
ロバ ♪ブレーメーーン!(泥棒屋敷の窓に前足をかけ)
イヌ ♪ブレーメーーン!(ロバの背中に乗って)
ネコ ♪ブレーメーーン!(イヌの上に乗って)
トリ ♪ブレーメーーン!(ネコの頭の上にとまって)
泥棒達 なんだ! なんだ!
四匹 ♪ブレーメーーン!
みんなはいろんな顔芸をやる。顔のダンス。
四匹の顔を上下に左右に。ズレる。互い違い。
首が入れかわる。上から下へグルグル流れる。
首が一回転する。手で「いないいないバァ」。
髪で顔を隠した顔お化け。百面相。
極めつけ顔のエグザイル。
ロバ ヒヒンッ!
イヌ ワンワンッ!
ネコ ミャ~~~ッ!
トリ コケコッコーーーッ!
四匹は鳴きながら窓から部屋へワッと一斉になだれ込む。
窓ガラスがガラガラ割れる。バリバリガッシャーンッ!
泥棒たちは驚いて飛び上がり、
泥棒達 ギャーーーッ! バケモノだっ! ママァ! ママァ! 助けてーーーっ!
手下 親分~~~っ! 待って! 待って! 置いてかないで~~~!
泥棒たちは生きた心地もしないで森の中へ逃げていく。
四匹 やったーーー! ハハハハハ!
みんなは輪になって抱きつき飛び跳ねる。
ロバ よぅし! 食うぞー!
四匹の仲間たちはテーブルに着いてモリモリムシャムシャご馳走を食べる。
ロバ みんなは食べた。モリモリムシャムシャ。この先ひと月は食べないでもいいくらいに。泥棒の食べ残しだけど、そんなの関係ない。だっておいしいんだもん!
ご馳走を食べるダンス。音楽に乗って。(例えばチャップリンの『黄金狂時代』のパンのダンスの曲)
ナイフとフォーク。骨付き鶏肉。
自分で食べる。
右側の相手に食べさせる。
左側の相手に食べさせる。
前の子どもたちに食べさせる……真似。
立ち上がって腕を組み、クロスして、食べながら踊る。
仲良く食べ終わる。
四匹 ごちそうさま~!
ロバ ご馳走を食べ終わり、お腹いっぱいになると、明かりを消してめいめい好きな所に寝転んだ。腹いっぱいだからけんかもない。(大あくび)あぁあ、まぶたがくっつくよ。
ロバのあたしは庭先のワラの上に。
イヌ イヌのわしは戸の陰に。
ネコ ネコのあたしゃカマドのあったかい灰のそばに。
トリ オンドリのぼくはもちろん屋根の上に。
ロバ みんな旅の疲れでグッスリ。おやすみ~~。
三匹 おやすみ~~。(息ピッタリ)
にぎやかで幸せそうなみんなのイビキ。
真夜中。フクロウの鳴き声。
フクロウ ホゥホゥ。さて、真夜中過ぎ、逃げ出した泥棒たちが遠くから家を振り返った。家の明かりは消え、ようやく騒ぎも静まったみたい。
泥棒 いや~~、さっきはびっくらこいた。心臓が口から飛び出してカエルみたいにピョンピョン跳ねてつかまえるのに一苦労だった。なんだってあんなに肝をつぶしちまったんだろ。あんなにあわくってビクビクするこたぁなかった。らしくねぇ。
手下 らしくねぇです、親分。
泥棒 きっとありゃ、ネズミかなんかだ。なにかのまちがいだ。そうとなりゃ家の様子を探りにいってこよう。
手下 さっすが、親分。
泥棒 行け。
手下 え?
泥棒 おまえが。
手下 え?
泥棒 おまえが行け。
手下 ええ! イヤですよ。親分どうぞ。偉いんだから。さっすが、親分!
泥棒 行け。絶対命令だ。キム◯◯◯◯◯だ。聞かねえと身体中マヨネーズ漬けにして食っちまうぞ。
手下 へいへい……。
手下は渋々家の様子を見に出かける。
フクロウの鳴き声。
手下 ヤだなァ……なんで一人で、こんな真夜中に行かなきゃいけないんだろ。親分てんで怖がりだからなァ。出ベソのくせして意気地がない。ヤダヤダ。今度
生まれ変わったら、新しい親分見つけよう。(家に着く。中は真っ暗)ウワ~~やけにひっそりしてるなァ。おまけになんも見えない。シンッとして物音一つし
ない……台所に入って明かりをつけよう。確かカマドに炭火が残ってたはずだ。それでマッチに火をつけて……おっ、真っ赤にピカピカ光ってるのは、燃えてる
炭にちがいない。
ネコ 泥棒が、ネコのあたしのキラキラ光る目を真っ赤に燃えた炭とまちがえて、この目にマッチを(突き立てた――)ニャーーーッ! あたしゃ澄ましちゃいられない。泥棒の顔に飛びかかりフーッとうなって顔を引っかく。
手下 ギャーーッ! おったまげてあわくって、裏口から逃げ出そうとしたところ――
イヌ 寝ていたイヌのわしがビックリ飛び起き、足をガブリ――
手下 ギャーーッ! 痛くて怖くて庭を突っ切ってワラのそばを駆け抜けようとしたところ――
ロバ 跳ね起きたロバのあたしが、イヤーン、コワーイ、後ろ足でドンッ――
手下 ギャーーッ!
イヌ 騒ぎで目を覚ましたオンドリのぼくが泥棒の耳元でコケコッコー! コッコクルナー!
手下 ギャーーッ! 親分、助けてーーーっ!
手下のシロワッサンは一目散に親分の元へ逃げていく。
シロッサンは無事逃げ戻る。
泥棒 どうした、どうした、バケツひっくり返したみてえなツラして。
手下 た、た、大変だ。あ、あ、あの家には恐ろしい悪魔のばあさんがいる。そいつがいきなりおいらの耳に息吹きかけて、長い爪で顔を引っかきやがった。ん
でもって戸口にはナイフを持った男がいて、おいらの足を突き刺しやがった。んでもって庭には真っ黒けのオバケの怪獣がいて、丸太棒で殴りつけてきやがっ
た。んでもって屋根の上には裁判官がいて、「コッコに泥棒連れてコーイ!」って怒鳴りやがった。おいら心の臓も落っことして無我夢中死に物狂いで逃げてき
やしたよ。
泥棒 ……ハハ……ハハハ! なにをバカ言ってやがる。デタラメを。(実は少し怖い)
手下 デ、デタラメ! だったら親分どうぞ。もう一度家の様子を探ってきて下さいよ。
泥棒 よぅし。悪魔のばあさんもナイフの男も真っ黒けのオバケの怪獣も屋根の上の裁判官も、みんなとっちめてやる! 倍返しだ!
フクロウの鳴き声。
フクロウ ホゥホゥ。大泥棒クロワッサン、一人家の様子を見にいった。
泥棒 ブルルルッ! やっぱり一人はおっかねえなァ。なんも見えねえし。いや、ここでビビって小便チビっちゃ手下どもに示しがつかねえ。(家に着く。手探りで進む)この辺りだと思うんだが……まず台所に行って明かりをつけよう……
家を探りにきた大泥棒クロワッサンは手下と同じ動きをする。しかも超スローモーションで。四匹も超スローで大泥棒をやっつける。(サイレント)
ネコの目にマッチを突きつけようとした大泥棒に、ネコは息を吹きかけ、顔を引っかく。
驚いて裏口から逃げ出そうとした大泥棒のお尻を、イヌがガブリとかみつく。
庭を突っ切ってワラのそばを駆け抜けようとした大泥棒の急所を、ロバが後ろ足で蹴飛ばす。チ―ン!
痛みで悶える大泥棒の耳元で、オンドリが大声で(サイレントで)「コケコッコー! コッコクルナー!」と叫ぶ。
泥棒 (元のスピードに戻って)助けてくれ~~~~! もう二度とゴメンだ~~~~!
大泥棒クロワッサンは逃げ出していく。
みんなは大笑い。
四匹 それからというもの泥棒は二度とこの家に寄りつかなかった。
ロバ さてと、みんな、どうするこれから?
ネコ なんだかあたしゃこの家が気に入ったよ。もう一歩も動きたくない。あったかいカマドはあるし。それに……みんなも気に入ったよ。好きだよ、あたしゃ。
イヌ わしもネコのばあさんの勇気には恐れ入ったよ。先頭きってあの大泥棒をやっつけるんだからな。
ネコ あんたもガブリと頼もしかったよ。
トリ ぼくは毎朝歌ってられるなら、ここだっていいよ。無理にブレーメンに行かなくっても。みんながうるさくなければだけどね。
イヌ だれがうるさいもんか。毎朝天気がわかれば散歩にも都合がいい。
ネコ (オンドリに)あたしゃ大歓迎だね。元からあんたが好きなんだから。(顔のよだれをなでる)
トリ うれしいなぁ。(ネコの意味するところにまったく気づいてない)
イヌ ロバ君、あんたはどうするよ。
トリ (ロバに)ぼくはね、あしげ君、今の騒動でわかったんだ。きみがいなけりゃぼくたちまとまらないよ。
ネコ どうするニャ?
ロバ そうだな……あたしは――ブレーメンへ行くよ。
三匹 ええっ!
ロバ でも――行くのは、あしただ。きょうじゃない。きょうはみんなと一緒にここにいる!
ネコ ああ、うれしいねぇ。
イヌ みんな一緒だ。
トリ そうでなくっちゃ。
ロバ でも、あしたはブレーメンへ行くよ。あしたには――きっとね。
三匹 ああ、わかってる、わかってる。あしたはきっとブレーメン!
ロバ そうさ、行こうブレーメンへ!
みんな おうっ! ブレーメンへ!
歌 ♪ブレーメン! ブレーメン!
素敵な街 愉快な街
みんなが 陽気に歌ってる
きょうは どんなにつらくとも
あしたは 立派な音楽家
ぼくら ブレーメンの音楽隊
めざせ! いこう! ブレーメン!
あしたはきっと ブレーメン!♪
(おしまい)
◎登場するのは……
ロバ
イヌ
ネコ
オンドリ
飼主の男
ご主人
おかみさん
マダム
コック
大泥棒クロワッサン
手下シロワッサン
フクロウ
◎舞台づくりメモ(今現在思いつくものです)
・みんなで一緒に創りましょう。
・今まで通りの芝居風朗読劇です。
・それぞれ担当を決めておくとスムーズにいくでしょう。
☆舞台係(大道具)……
・黒幕を舞台後ろに張る。他。(広島持ち物)
☆小道具係……
・楽器はあまり使わない方向で。
・絵本の絵……使うかどうか思案中?
・ご馳走セット……大皿に立体的に絵を描くか?
大ジョッキ。骨付き肉。ナイフ。フォーク。皿。
・木の枝
△月……あれば。
△猟銃……あれば。
☆衣装係……
・それぞれの動物や、人物を連想させるもの。
・ロバ…耳。ひづめの手袋。首の鈴など。イヌ…鼻。
ネコ…ひげのメイク。オンドリ…とさか。
・飼主…チョッキ。ご主人…ハンチング帽。
・おかみさん…エプロン。マダム…肩掛け。
・コック…白帽子。
・泥棒たち…ひげ。帽子。パンチョ。
☆M音楽・SE効果音係……蘆田さん
「ブレーメンの音楽隊」の歌。作曲をお願いします。
・動物の回想シーンの導入音。
・ハーモニー/和音の練習シーン。
・泥棒達の音楽。
「窓から乗り出すシーン」「ご馳走を食べるシーン」…「黄金狂時代」
・大泥棒が動物たちにやっつけられるところの効果音。など。
☆スタッフ……
・△絵の差し替え。
・ご馳走のテーブルの出し入れ。
・黒の上下の服。
☆他、いろいろ気づきやアイディアがあればおっしゃって下さいね。
Qメモ
・顔ダンスとセットの関係。
・ご馳走……机出すか、すわるか?
・顔ダンス、ご馳走ダンスの練習。
・泥棒をやっつけるシーンの練習。
・☆照明……使わない。
歌 ♪ブレーメン! ブレーメン!
素敵な街 愉快な街
みんなが 陽気に歌ってる
きょうは どんなにつらくとも
あしたは 立派な音楽家
ぼくら ブレーメンの音楽隊
めざせ! いこう! ブレーメン!
あしたはきっと ブレーメン!♪
イヌ きょうは 足腰立たずとも
イヌ あしたは 元気な音楽家
ネコ きょうは 涙もかれたけど
ネコ あしたは 笑顔の音楽家
トリ きょうは 希望もつきたけど
トリ あしたは 明るい音楽家